2021年3月31日水曜日

『Coyote』no.73 / Spring 2021



「Coyote」
no.73 / Spring 2021
Switch Publishing


イッセー尾形さんがご家族との旅のことを書かれたテキストに絵を描きました。イッセー尾形さん、文章もとてもいいですね。

旅といえば、この道の先になにがあるのか、あの角を曲がったらどんな景色が現れるのだろう?この「なにかいいものに出会えるかもしれない」という期待が僕にとって旅の出発点であるようだ。

昨年の春、コロナ禍によって息子の幼稚園も3月から6月まで4ヶ月間ほど休園になった。さすがにずっと家に閉じこもっているわけにもいかず、時折、気分転換と運動不足解消のために、息子と虫捕り網をもって人気(ひとけ)のない近所を歩いていた。
山側の住宅街は、人とすれ違うこともなく、いつもの路地がいつもと違うようで、僕たちはその静まり返った路地で蝶を追ったり、アゲハの幼虫を探したりしていた。やがて、住宅街のはずれから「見晴らし台」を辿り、そのままぐんぐんと山の中を登っていった。
鳥の鳴く声と葉っぱを踏む音。開けた場所からは町が見渡すことができた。ここは家から一番近いトレッキングルートだけれど、近いから逆にこれまで来たことがなく、だから当然すべてがはじめて歩く道だった。なんだかとても気分がよくて、「なにかいいものに出会えるかもしれない」期待感に満ちていた。あ、この感覚は旅だな。そして、子供の頃はよくこういう気分で山や川で遊んでいたなあと思った。
それから僕たちは山に通った。枝という枝から毛虫がぶーらんぶーらんしている毛虫祭り状態になる日まで。
あれから一年、まだ相変わらず油断できない状況だけれど、だんだんと暖かくなってきたし、太陽も明るくなってきた。蝶もちらほら飛んでいる。また、山に通う日々になりそうだ。