2021年1月17日日曜日

ネムノキをきらないで



装画・挿絵のお知らせ。

『ネムノキをきらないで』
岩瀬成子/作 植田真/絵
文研出版


おじいちゃんの家の庭にある立派なネムノキを、おとなたちは切り倒すといいだした。ぼくは反対したけれど、枝がのびすぎて、あぶないからといって、枝を切り落とすことになる。ぼくは、おとなたちにいいたいことをうまくことばにできない── (本書そで文より)

身近にある木々や虫や生き物たちの存在。ひとつひとつ見ていると、その向こうにはもっとたくさんの気配を感じる。木にとまる鳥。鳥がついばむ虫。鳥がさえずり、風がふいて葉と葉がふれあう。木の下で仕事の手を休め一息つく人。なにげない営みを切り取ってみても、人も動物も虫も木々もみんな繋がっている。

親密さと大きく包まれるようなやさしさを感じる岩瀬成子さんの新刊。
文章で描かれる少年の繊細な気持ちと少年を通して見える情景が印象的でした。イメージが固定される絵ではなく、文章と絵が気持ちのよいハーモニーを奏でてくれたらいいなという想いで、全体に小さな絵たち、ピースがちらばるように描き、最後に合わさって読後感として残るように意識しました。
ぜひ、多くの人に読んでもらいたい本です。


僕の母の実家には柿の木があった。こどもの頃、その柿の実が美味しくて、秋がくるのを毎年たのしみにしていた。この本の絵を描いていたらそんなことを思い出した。そしたら、「今年は柿がたくさんなったよ」と、叔父(母の兄)から柿が届いた。ずいぶん久しぶりに食べたけれど、普段食べている柿の味ともまたちがう、こどもの頃食べたあの柿の味がした。それは、こどもの頃のことをあれこれと思い出す味だった。お祭りのことや、母の実家に一人で泊まったことや、従兄弟たちと駆けまわったことや、年の瀬に庭でお餅をついていた親の姿などを。そう、一本の木にも、いろいろなものが繋がっている。